第7夜 愛の口付けを教えて

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 * * * *  夜の食事を終え、カルピナとアザゼルが部屋から退出した。 「さてと、じゃあ僕は湯浴みにでも向かうかな……ギルが先に入るか?  僕はどっちでもいいぞ」 「別に一緒に入れば問題ないだろう。  ティルア王子の顔は確かにおれ好みだが、身体は女だったからな……そういった意味では気構える必要はない」 「え、だって男は女性の身体を見ると理性が利かなくなるんだろう?  アスティスがそう言っていたぞ」  椅子から立ち上がったティルアはきょとんとした表情でまだ座ったままのギルバードを見下ろした。  途端、ギルバードは腹を抱えて笑い出した。 「くっくっくっくっ、ははははははははっ!  腹が痛い……、くっ、くくくく……!」 「むっ、ギル、笑いすぎだろう!  何かおかしなこと言ったか僕は?」  ティルアは座ったまま肩を揺らすギルバードにむくれ面を向けるも、ギルバードの笑いは止まらない。 「ははは……!  あの優等生が――、あのすましたエリート面がか……!!」 「すまし……?」 「これがほんの三年前まで女に興味すら持たずにいた男の台詞とは……!」  “ 三年前 ”  ティルアの心拍がどくんと揺れた。 「……ギル、僕は先に入る。  いいか、ついてくるなよ」  着替えを引っ掴んだティルアは逃げるようにして部屋を出た。  * * * *  湯浴み場の花籠に衣類を落としたティルアはタオルを腰に巻き、湯気立つ衝立の奥へと足を踏み入れた。 「…………あ、れっ」  湯気の向こうにぼんやりと朧気に映るシルエット。  濡れてボリュームがなくなった金の髪に造詣のよい顔立ちと上半身が眼に入ったところで、ティルアは足を止めた。 「えっ、アスティス……!」 「ティルア……!?」  入り口の使用人からは何も聞いていなかっただけに、ティルアの動揺は大きかった。 「あ、僕……後で入るから」   「いや、いい。  俺が先に出る。  そろそろ出ようと思っていたところだ」  アスティスが湯から立ち上がり、飛沫が上がる。  腰に巻かれたタオルから湯水がポタポタと落ちて敷石に模様を落としながらティルアが立つ入り口へと向かってくる。  湯を滴らせるアスティスの逞しい肢体はティルアに色気を感じさせた。  自分にはない男の魅力だと思うと、ティルアはアスティスが羨ましく思えた。
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