第二章・夏の記憶と罪

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遠くに拓実の姿を見つけると、私たちは人目もはばからず大声で叫び手招きした。 「拓ちゃん、遅いよ」 「先輩、遅い!待ちくたびれちゃったよ」 「ごめん、ごめん。交通規制がかかっていて道が混んでいたんだ。駐車場も探せなくて」 拓実が近づくにつれ、私の鼓動はどんどん大きくなっていった。 大学生になってから、拓実は髪の毛を伸ばし始めた。といっても、さっぱりとした短髪だったけれど、それが、驚くほど拓実に似合っていて、私はそんな些細な彼の変化にいちいちときめたものだ。 「二人とも浴衣なんだ?」 「うん!真央が貸してくれたの」 真衣は、また子供みたいにくるくると回った。 背の小さくて、化粧気のない真衣は、中学生にも見えた。それに対して、私は昔から実年齢より上に見られることが多かった。しかもその日はいつも以上に化粧もきっちりしていたし、髪の毛も綺麗にまとめていた。自分で言うのもなんだけれど自信があった。 その日くらいは、拓実に私のほうを向いてもらえそうな気がした。
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