第二章・夏の記憶と罪

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夏がやってきた。 青々とした木の葉の香りが、風に乗って運ばれてくる。最近ますます強くなった日の光に私は目を細めた。まぶたの裏側にまで染みる濃いオレンジ色。 凪いだ海のような穏やかな日々が続いていた。 拓実が、仕事先の先輩から風鈴を貰ってきて、窓辺に吊るしてくれた。 ガラスにスイカの模様が描かれたそれは、風に吹かれれば、かちんかちんとおもちゃのような音を立てる。 「うわ、安っぽい音だな」 「そう?私は好きだよ、この音」 「そっか。なら、よかった」 「ん?」 「真央が喜んでくれるなら、貰ってきてよかったってこと」 ふわりと、拓実の大きな手が私を包み込んだ。何気ない一言一言に、私がこんなにも感激している事に、彼は気付いているだろうか。 そっと、拓実を見上げると、優しいキスが降ってきた。私は、彼が私にくれた何倍もの気持ちを込めて、彼のキスを受け止めた。 梅雨の季節が明ければ、拓実はちょっとだけ元気になる。だから私は夏が好きだ。
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