第二章・夏の記憶と罪

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そんなある日、久しぶりに二人の休みが重なって、珍しく拓実がデートへ誘ってくれた。 デートと言っても、近所の商店街で行なわれる夜店を覗きに行くだけなのだけれど、私はまるで子供のようにはしゃいだ。 「ちょっと大げさじゃないか?」 浴衣に着替え、念入りに化粧をする私に拓実は苦笑いを浮かべている。 「だって、久しぶりのデートだよ」 「でも、たかだかそこまで行くのにさぁ」 口ではそう言いながら、決して私をせかしたりはしない。苛立ったりもしない。 拓実は鏡とにらめっこする私の後ろで長い時間辛抱強く待っていた。時々、鏡越しに目が合うと、優しく微笑んでもくれた。 「できた。どう?」 「おう。完璧」 私たちは手を繋いで出かけた。拓実の手はごつごつとして、豆だらけで、大きい。 この手の温もりを、私はようやく手に入れたのだ。それを、どうして手放すことができるだろう。
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