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後方の席で良かったと思った。
学生など初めてだからここなら周りの生徒を見て合わせやすい。
カタリと音がしたのでそちらを向けば隣と斜めの席に座る二人が。
何か言うべきかと悩んだが杏色の癖っ毛のある髪をもつ背の低いほうが声をかけてくれた。
「隣の席だよね?僕はミュスカ・ナーザっていうの。これから宜しくね。」
「…ああ、俺は--」
「あっ!俺も!キジュアル・アリクアって言うんだ、よろしっ、いだっ!」
斜め前の席の奴が急に話してきたので目を丸くしていたが今度は突然現れた固まりが彼の頭に落ちてきたので唖然としてしまった。
「ちょっとアル!喋ろうとしてたのに遮っちゃ駄目っしょ!」
「いやいや、だからってこれはないよね!?すっごい痛いんだけど!」
落ちてきたのは土の固まりのようだ。アルと呼ばれたキジュアルの紺瑠璃の髪からパラパラと落ちていく。
言い方から察するにミュスカ・ナーザが放った魔法だろう。
まだ言い合いは続いている元から知り合いなのだろう。
明らかにキジュアル・アクリアのほうが頭ひとつ分背が高いのにミュスカ・ナーザのほうが大きく見えるのが可愛そうになったので止めた。
「俺は気にしていないからそのくらいにしといてやれ、ミュスカ・ナーザ。」
「ほんと?良かった。あとそんなよそよそしく呼ばないでってば、ミュスカって呼んで。ほらアルも謝る!」
「わりぃな……って、あー、御免なさい。俺のことはアルって呼んでな…あはは。」
ミュスカからの鋭い目線でアルは言い直した。冷や汗がダラダラと出る。
同情的な目でお疲れと言えば苦笑された。
「そう言えば名前聞いてなかった!何て言うの?」
「そうだったな。俺は」
初めての学生生活。
普段の魔物の討伐なんかより難しくないが緊張していたようだ。
滅多にない同世代との会話に少し戸惑っていた。
それ以上にきっとこの二人は初めての友達になるのだろうと予感していた。
仕事でこの学園に来たが折角なのだから思う存分楽しもうと彼は思ったのだ。
「コウ・ラピスタだ。」
それは学園に来て初めての心からの笑顔だった。
コウの顔はこれからの学園生活に期待に満ちていた。
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