第一話【カレーライス】

6/25
前へ
/25ページ
次へ
 まだ少し顔が熱いまま、この家庭で初めてのご飯を作る。  みんなの好き嫌いとか知らないし、好みに合うかわかんないけど……。  なんて思ってると、玄関のドアがガチャッと開いた。  硬直する体。  お兄さんのマサヒトさんが帰ってきたんだ。 「……お、お帰りなさい!」  帰ってきたその人に、精一杯頭を下げる。  その人の顔を見上げると、キヨフミさんと同じくうっとりするほど美しいお顔で、同じように跳ねた黒髪を下ろしていた。  長い前髪が窪んだ目元を翳している。長い煙草を一本くわえたまま、彼は私を苦い顔で睨んでいる。 「あ、あの、私、今日から住まわせていただく、小野香織です。 お部屋に荷物置かせてもらってます。今日から同じ寝室みたいで……って、それはお母さんから聞いてますよね。 あ、お夕飯もうすぐできるんで……」  緊張のせいか、黙ったまま私を睨むマサヒトさんにまくし立てて、言いたいことをぶつけてしまう。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加