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◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ガキン。
剣が短剣を弾きかえす。
玉座の間は漆黒の炎に包まれ、一部は凍っていた。
魔王の適切すぎる巨大魔法の威力だ。
初級魔法をあれだけ強力に、しかも的確に魔力量を消費できる存在に男は初めてであった。
「動きが大きい」
魔王は直ぐに男の懐にはいって何とか躱せる程度の攻撃を仕掛ける。
殺す気があるのかないのか分からない。
其れほどまでに手を抜いていると思える動きだった。
魔王が動くたびに黒髪がさらりと揺れ視界の端にちらつく。
「風魔法」
突風が吹いて魔王との間合いが開く。
接近戦をする男には不利な間合いだ。
男は奥歯を噛み締めた。
手がない。
魔王はだるそうに見えて隙はなかった。
現にボロボロになっている男に対して魔王はローブにほつれさえ作ってはいない。
「雷魔法」
男は小さく呟いて駆け出す。
剣に雷を纏って魔王目掛けて直進したのだ。
魔王は受け流しの構えをとる。
といっても脱力しているようにしか見えないのだが。
そこで男は直角に曲がった。
足にも雷魔法を使って磁力の反発力を生み直線的ではあるが不規則な動きをしたのだ。
そして、そのまま魔王を下から切り上げる。
魔王は背を逸らせてそれを紙一重で避けた。
「……っ…」
魔王はたたらを踏み、顔を手で覆い隠す。
無駄な動きと少しではあるが慣れない魔力コントロールに勇者しか扱うことのできない雷魔法を使ったために男の息は上がってしまっていた。
はらりと魔王の髪が一筋落ちた―――
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