くらやみせかい。

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「!?」 "其の人"を見た瞬間男は固まった。 少し癖のある黒い髪に対照的な白い肌。 黒く長い睫が囲む瞳は猫の様な釣り目で、其の瞳の色は深紅だった。 男の心臓は先程の戦闘と同じようにばくばくと音を立てる。 先ほどよりも緊張感を増して、動くことさえままならない。 その間に、魔王は男に向かって手をかざしていた。 顔を見られたからには生きて帰す気はないらしい。 その掌に光と闇が集合する。 言わせるなら混沌を生み出しているのだ。 「待ってください」 男の一言に魔王は動きを止める。 どうせ逃げられない袋の鼠とでも思っているのだろうか。 「貴方のお名前は…?」 「名乗るほどの名は、ない」 バッサリと切り捨てる魔王。 その表情は動かない。 細い指先に闇が絡みついていた。 「どうして…光を使えるのですか…」 そこで初めて疑問に思った。 魔王であるならば他の人が使うのに苦労する他属性の魔法を使うことは容易くできて当たり前だ。 けれど、光属性と雷属性は神聖な属性。 魔王に使えるのはおかしい。 それにこの城には魔物は一体もいなかった。 「…貴方は、本当に魔王なのですか―――?」 魔王は一歩も動かなかった。 動揺するわけでもなく、固まるわけでもなく、無反応。 此の人間は分かりきったことを何故問うのだろう、なんて思っているに違いない。 男は死を覚悟した。
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