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今回はウェインバーグ伯爵からの舞踏会への誘いだった。
ウェインバーグ家は貴族間の家柄でいえば中流貴族といったところだが、この所勢力を拡大しており、いずれ大物になるのではまことしやかに噂されている。
念のためにと、招待を受け入れた次第だった。
舞踏会に行ったところで、ハイドは踊るつもりはない。
そもそも、総帝の姿の時はローブと仮面で顔を隠しているというのに。
そんな出で立ちの者が、金銀細工の眩しい豪奢な大ホールの中でひっそり立っているというのはどう想像してみても――。
(……不気味なだけだな)
行っても、どうせ周りから遠巻きに好奇の視線を向けられるだけだ。
もしくは、媚びを売ろうと躍起になる貴族連中にたらい回しにされるか。
正直にいえば、苦痛な時間でしかない。
唯一の救いは、今回のウェインバーグ伯爵というのが親ギルド的な考えの持ち主であるということだ。
招待された貴族までもがそうであるとは限らないが、反ギルド派の貴族に公の場でワインを引っかけられそうになったり、意味なくぶつかられたりといった陰険な苛めはないだろうと思いたい。
さらりと回避できるからといっても、面倒なことに変わりはないのだ。
(……憂鬱だ)
できるだけ早く切り上げて帰りたいと思いながら、ハイドはぐいっとレモン水を飲み干した。
皿の上の料理は綺麗に平らげられていた。
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