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妖精の王女が主人公のあの話はラゼットが一番好きだった絵本だ。
可愛くて綺麗で、でも芯の強い王女様。
捕えられた恋人を助けるために戦う強い王女様が大好きだった。
今日も今日もと毎晩のように、あの絵本を読んで欲しいとせがんでいた。
懐かしい、幼い頃の思い出。
今ではもう、ラゼットが読み聞かせを行う側になっているけれど。
――うん、今日はあの本にしようっ!
古い絵本だけど、まだちゃんと残っているはずだ。
ナディアとマルシェはお姫様が出てくるお話が好きだからきっと喜んでくれるだろうな。
テオは怪物と戦う勇者の話がお気に入りだったからちょっとすねるかも。
フィオナとカイルはきっと今日もすぐ寝てしまって、明日の晩もまた同じのを読んでくれとせがむのだ。
そう、幼い頃のラゼットそのままに。
ラゼットは軽い足取りで石畳の道を進む。
ベージュの通学カバンには教科書がいっぱい入っていて重たいはずなのだけど、心がうきうきしていたから全然気にならなかった。
王都ウィンストンベル中央地区五番街センターベル通り。
いつも賑やかなその通りから外れて、さらに東に進んだところにラゼットの家はある。
大通りとは打って変わって、小さな家がぽつぽつと並んだ割と静かなところだ。
可愛らしい大きさの家々の中にひっそりと紛れた白い建物。
目印は茶色い煙突だ。
ごく偶にではあるけれど、お菓子を焼いた時には甘い香りがして、それだけですごく幸せな気持ちになる。
扉を開ければたくさんの幼子たちが出迎えてくれるそこは王都唯一の孤児院。
みなしごたちが集まる宿り木。
そして、ラゼットの帰るべき家だった。

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