異世界

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・・・・・ 「(…やっちまった。)」 しかし…時すでに遅し。内心で冷や汗を掻く彼…鬼灯拓也は今、股間に葉っぱ一枚つけた状態で、謎の美少女の前に立っていた。 ただただ…長い沈黙が続く。 敵意を剥き出しにした謎の美少女を前に…拓也は得意のニヤケ面のまま。しかしそんな表情もどこかいつもより強張って見える。 「(めっちゃ睨まれるやん…?)」 一応…両手両足を軽く広げて無害であることを示しているつもりの拓也であったのだが……生憎こんなどこからどう見てもヤバい奴が茂みから某大人気ゲームのモンスターよろしく飛び出してきて警戒しない人間の方がおかしい。 どうやらこちらから切り出さなければ状況は動かない。内心ヒヤヒヤの拓也であったが…そんな思いの元、彼はとりあえず片手を挙げながらニコッと笑って目の前の美少女に声を掛けた。 「やあ、今日はいい天気だね。」 「…。」 しかし…彼女からの反応は無い。伝説の葉王の台詞でもだめか…と頭を悩ませた拓也。 ちなみに彼女の掌に集まる魔力が徐々に増えているのは言うまでもないだろう。 そんな時だった。 「どうして…裸なんですか?」 ひとまず彼を友好的生物と認識したのか、美少女が小さな声で尋ねるようにそう口を開いた。 「失敬な、葉っぱを付けてるじゃないか。」 これには流石に世界をけん引するファッションリーダーの拓也はブチギレて、静かな怒りの籠った声色で自身のファッション性を主張したのだが……返ってきたのは鋭いレーザーであった。 細いながらも高出力な光の束は…ファッションリーダーの頬を掠める。 「(ほえぇ…ジョーク言っただけでいきなりぶっ放されたんだけどぉ!!?)」 「真面目に答えてください、次は当てます。」 「はいすみませんすみません!山賊に襲われて身ぐるみはがされました!」 嫌今も当たったんだけどね?血が出てるんだけどね?そう言いたい拓也であったが背に腹は代えられない。 顔面を焼かれる前にプライドを捨てて、へへへ…と分かりやすく焦りながら正直にそう答えた。 すると…彼女は翳していた手を下ろして一つ息を吐いた。 緊張がひとまず解けたことが拓也にも理解できる。 「そうですか、あなたは山賊じゃなかったんですね。そうとは知らずすみませんでした。」 「(…山賊っていうよりは変質者じゃないか?今の俺。自分で言ってて悲しいけど。)」 「血が出てしまってますね…本当にごめんなさい。手当するのでその…、とりあえず服を…。」 先程の有無を言わさない閻魔のような態度と異なり、途端に礼儀正しくなった彼女は小走りで拓也に近付くと…申し訳なさそうに眉を顰めてそう謝罪を述べた。 「あぁ大丈夫、そんなに痛くないから。」 「あ、あの…簡単ですが手当するのでその……とりあえず服を…。」 流石にほぼ全裸の男に近付いて…羞恥心が擽られたのだろう。白磁のように白い頬を微かに朱色に染めた彼女が視線を逸らしながらそう言った。 しかし…彼は身包みを剥がされし男。無い袖は振れない。物理的に。 「いや~お恥ずかしいことに服まで盗られちゃったんだよね~。」 「そうですか……では、とりあえず町に行きませんか?服屋もあります。お詫びさせてください。」 彼女がそう提案してくるが…。 「いや、山賊に盗られた荷物取り返さなくちゃいけないし…それにこの格好で街に行ったら三食労働付きの檻付きの部屋に行かなきゃいけなくなりそうだからいいや。」 それに盗られた物の中には当然じーさんから貰ったローブと剣もある。人…というか神の厚意で貰った大切なモノであるし、何やら性能もよろしいモノなので拓也としては取り返したい。 すると…少しの間顎に指をあてて考えるような仕草を見せた彼女は、一つ指をピンと立てて彼に提案した。 「それでは私も一緒に行きます。あなた一人では…まず戦えないでしょうし。」 「ん~それじゃあお願いしようかな。俺葉っぱだし。あ、あと極力戦闘はしたくない。俺葉っぱだし。」 能力的には当然一人でも何の問題もない拓也であったが…ここであったのも何かの縁だと快く彼女の提案を呑んで、彼女がポーチの中から差し出したガーゼで頬の血を拭って絆創膏を張り付けた。 「わかりました。では行きましょうか。」
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