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林の中を…ひた歩く二人。既に粗方の位置を絞り終えていた拓也は迷うことなく歩を進めていた。
隣を歩く少女をチラと一瞥した拓也。絹のように美しい銀髪に、端正な顔立ち。クールな雰囲気を纏う彼女はさながら月の女神。
そして僅かに視線の位置を下げた彼は…ぼそりと呟くように一言。
「C…+位かな…?」
「なんですか急に?」
「発声練習だ、気にしないでくれ。」
「そうですか。」
食いつかれてはマズいと…訳の分からない返答をしておどけた拓也に、冷たい声色でそう返す彼女。
これで印象は悪くないと内心ガッツポーズの拓也であったが……そもそも葉っぱ一枚で居る時点で印象最悪だということに彼は早く気付くべきだと思う。
すると…何を思ったのか…銀髪の彼女はそんなヤバい奴に自分から話しかけた。
「そういえば自己紹介がまだでしたね。
私はミシェル=ヴァロア、十六歳です。よろしくお願いしますね。」
彼女…こと、ミシェルと名乗ったその美少女は軽くペコリと頭を下げる。
そんな自己紹介を終えた彼女を前に……拓也は面食らったようにフリーズした。脳内で繰り返されるじーさんが告げた名前と…今目の前の彼女が口にした名前が……頭の中で反響して…そして一致する。
「あの、どうかしましたか?」
時間が停止したように歩みを止めて固まっていた拓也に…ミシェルがそう声を掛けた。
「いやなんでもない。俺は鬼灯拓也、同じく十六歳だ。」
油の切れた人形のような動きの身振り手振りを交えながら辛うじて平然を装った彼はぎこちなく笑みを浮かべる。
というかそもそも彼が十六歳なのかという点は疑問に思うところだ。
「同い年だったんですね、ここであったのも何かの縁です。仲良くしてくださいね。」
すると…そんな彼にニコリと静かに笑い掛けたミシェル。冷たい印象を与える美貌の彼女が咲かせたそんな可憐な一輪の花は…木漏れ日の調子も相まって幻想的にすら感じられる。
「あぁよろしく、それとそんな硬い口調じゃなくても良いぜ?同い年なんだし。」
「すみません、この喋り方のほうが慣れているので…。」
「あぁそういうこと。それなら問題なしだな。」
しかし……こんなヤバい奴を濃縮還元したような男に仲良くしてくださいと笑い掛けるとは…もしかしたら彼女も相当ヤバい奴のかもしれない。
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