異世界

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「そういえば拓也…さん?」 「呼び捨てでもなんでも呼びやすいのでいいよ。」 「わかりました。では拓也さんは何か…武術をやっているんですか? 見たところ凄い体してますし」 彼女がちらちらと向ける視線の先には…一分の無駄などなく、最高効率で鍛え上げられた肉体。所謂首から下はイケメンの彼を見た者ならば…そう言った疑問を持つのもおかしくはないだろう。 「あー…剣術と魔法を少々。フラメンコとサンバもできる。」 「そうなんですか。そうなると相手の山賊、相当やり手ですね。本気でやらないとこちらも危なそうです。」 ふざけて返したはずなのだが…彼女は一人で思考に浸り、そんな危険な結論を弾き出した。彼女はどうやらバーサーカー由来の思考回路をしているらしい。 「(このままじゃあの山賊らヤバくね?)」 そもそも拓也が抵抗しなかった…というかできなかったのは山賊の統領の声にドスが効きすぎていて怖すぎたためであって……別に正面戦闘をしたわけではない。 恐らくだが…彼女単騎で壊滅させられてしまうだろうと、拓也は密かに思考を巡らせていた。 「逃げよう。荷物持って逃げよう。」 「…そうですか、わかりました。なら拓也さんの荷物の奪還を最優先で考えましょう」 切実に訴えてくる拓也に…少し残念そうな様子ながらもミシェルは承諾した。 そんなこんなでなんでもない世間話をしながら歩を進めること数分。拓也が探知していた山賊のねぐらへと到達した。 開けていながらも発見されず来場所に建てられた一軒の小屋のような家。茂みに身を顰める美少女と葉っぱ野郎は静かに会話を交わす。 「どうやらあそこみたいだな。よし、ここからは隠密だ。」 「…自信はありませんがとりあえず静かにやればいいんですね?」 「まぁそういうこった。会敵した場合はできるだけ殺さずに意識を奪う。俺はミシェルの戦闘を応援する。手拍子には自信がある。」 「わかりました。では行きましょうか。」 完全にスルーされながら山賊のねぐらへと向かう彼の背中に哀愁が帯びていたのは言うまでもない。
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