冬の流行

15/35
20898人が本棚に入れています
本棚に追加
/1022ページ
しばらくすると彼女は静かに寝息を立てて、眠りの中に落ちて行った。 緩やかに上下する布団を眺めながら、拓也は眠ったばかりの彼女を起こさないように静かに呟く。 「…無警戒だな」 自分が信頼されているから、目の前でもこうして油断しきった姿を見せてくれるのだろうと少し嬉しくなると同時に、それは男として見られていないのではないのかという考えにも至った拓也は結構落ち込むのだった。 椅子に腰かけたまま両肘を膝に置いて頭を抱える彼は、何かに気が付いて彼女の部屋をそっと出る。 階段を静かに下り、玄関を開ける。 「よぉ、なんか用か?」 「いや、ミシェルちゃんが風邪ひいたって聞いたから見舞いに来た」 そこに居たのは、白銀の雪景色を背景に、6枚3対の白い翼を綺麗に背中に畳んだ天使。 彼…セラフィムをよく知る拓也は、情報と行動が早い彼に苦笑いを浮かべながらも、とりあえず家の中へ招き入れた。 すると彼は、家に上がる前に手にしていた紙袋を拓也に手渡す。 「ほい、悩んだ末にゼリーを持って来てみた」 「おぉ、サンキューな」 拓也はそれをありがたく受け取る。 するとセラフィムは、入ってきた背後のドアを親指で差しながら、面白をうに口を開く。 「久しぶりに手合せして見ないか?」 「バカか、ミシェルが寝てる。絶対にダメだ」 バーサーカーのような笑みを浮かべそう発言した彼を、拓也は全く相手にせず無理だと返す。 セラフィムは断られたことにむくれてつまんなそうに口を尖らせた。 「…ちぇ~」 「なんだよ、いきなりどうしたんだ」 「…お前が居なくなって天界で相手になる奴が居ないんだよ」 「あぁ…なるほどね。 まぁやるにしてもまた今度だ。今日は無理」 「はいはい、分かりましたよーっと」 そう返事をしながら、拓也を追い越しリビングへ向かうと柔らかいソファーに頭から突っ込んだ。 拓也はそんな彼の行動を横目に、キッチンへ向かって湯を火に掛ける。
/1022ページ

最初のコメントを投稿しよう!