プロローグ

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マウンド上に立つ少年は額に滴る汗を右手の甲でぬぐいながら一呼吸置いた。 5-0、九回の裏、ツーアウト、ノ―ボール、ツーストライク。 最後の打席に立つのは9番バッター。しかも、ビールを飲み過ぎて腹が出ているただの中年のおっさん。なんら焦る事はない、いつも通りただキャッチャーミットに目がけて投げるだけで抑えられるバッターだ。 少年は一呼吸置いたあとに、正面を向いた。 マスクを被っている近所の八百屋のおっさんがど真ん中にミットを構えて待っている。 「さすがに舐めすぎだろ」 少年はそう小さく呟きながらも、キャッチャーに向かって首を縦に振った。 腕を高く振り上げ、大きく振りかぶり、キャッチャーミット目がけて全力投球。 少年の手から放たれたボールは風を切りながら前へと進む。 バシン!っとキャッチャーミットが大きな音を立て、その少し後にブンっとバットが空を切る音が響く。 ストライク、アウト。ゲームセット。 今日もいつもと変わらず、完全試合を達成したマウンド上の少年は、これまたいつもと変わらず小さくガッツポーズをしたのであった。
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