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一つ歳を取るごとに一年を早く感じるようになる。
それが楽しい時間だと特に早く感じ、なんだかんだとやっているうちに終わりはやってくる。逆に退屈な事だと長く感じ、さほど時間がたっていないのに長時間やっていたような気になってしまう。
そんな世の中、『大丈夫、まだいける』という言葉は日に日に現実味が薄れていき、ただの自己暗示となりかけていた。
八月下旬、いつの間にか終わりに近づいていた夏休みを前に大和佑介(ヤマトユウスケ)は、そんな自己暗示を自分に掛けながら自分の部屋を飛び出した。
向かう場所は近所のバッティングセンター。歩いてすぐの所にあるので昔からよく通っていたし、ボールを打った時の感触を思い出すとついつい向かいたくなるのだ。
玄関を出てから数分歩いたら緑色のネットに囲まれた建物が姿を現し、正面に設置された看板には『早川バッティングセンター』の文字がデカデカと描かれている。
その下の通り慣れた自動ドアを潜ると、向かって左側にある受付に座っていたおじさんが声を掛けてきた。
「よお、佑ちゃん遊びに来たのかい?いつもいつもありがとな。ほら、常連客にはサービスだ」
そう言っておじさんはコインを一枚指ではじく。コインはクルクルと回転し、綺麗な放物線を描いて佑介の手のひらに納まった。
昔からの顔なじみであるおじさんは佑介がここに遊びに来ると決まってコインをサービスしてくれてるのだ。
「サンキュー、おじさん」
そんなおじさんの好意に甘えて佑介はコインを握りしめるとスタスタとゲージの中に入っていき、備え付けのバットを握り締め、コインの投入口にチャリンと先ほど貰ったコインを投入する。
ガションっと機械の起動音が鳴り、ピカッと赤いランプが点灯した。
それを確認して祐介はゆっくりと右打席に入りバットを構える。
ゆっくりと緑色のアームが回転し、それがちょうどピッチャーのリリースポイントに到達したあたりでビュンっと勢いよく白球が飛び出す。
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