第三章・張り詰めた糸

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「ごめん、頬、痛かったでしょう。タオル、持ってくる」 脱衣所へかけこみ、タオルを探すと、深呼吸し、それから鏡に映る自分の顔を確かめた。 びぼさぼさの髪の毛に、上気させた頬、吊りあがった目、いくつもの涙の痕。酷い顔だった。 タオルを手に戻ると、拓実はさっきと同じ場所に座り込んでいた。私は、彼に背をむけ、タオルを水に浸した。冷水に触れながら、心もクールダウンする。 今になって手が震えてきた。 私は、何をした?何を言った? うまく力が入らないせいか、水を絞るのに手間取ってしまう。 それでもどうにかタオルを絞って、拓実に差し出した。拓実はそれで顔を拭いた。
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