第三章・張り詰めた糸

28/29
前へ
/30ページ
次へ
(彼は、きっとまた恋をすると思う。だって、彼はまだ若いんだし、これからの人生まだまだ長いんだもの。そのうち、きっと、彼の心の傷を癒してくれる人が現われて恋に落ちるはず、じゃなきゃ…じゃなきゃ、一生幸せにはなれない。その男の子も、私も…) そう言い掛けたことを思い出す。 私こそ、見ず知らずの少年と拓実を重ね合せているのだった。 記憶を撒き戻し、目を開けた。 あの、閉ざされた寝室のドアの向こうに愛する人がいる。 こんなに近くにいるのに、でも遠い。 私は彼を愛している。死んだ恋人を思い続けている男を、強く欲している。 それは確かだ。 そして、拓実の心が私に寄り添う事など一生ない。 それも確かだった。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加