第四章・空虚

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「あの、ここじゃないんだ」 躊躇いがちに言うと、 「は?どっか、行きたいとこあった?」 と、悠馬。 「ううん。そうじゃなくて、私ね、今実家に暮らしているの」 「それって…」 悠馬の瞳に期待の色が浮かんだので、私は慌てて訂正した。 「違うの、ちょっと喧嘩しちゃって。別に別れたわけじゃないの。ほら、冷却期間っていうか、お互い頭を冷やそうって。そういうこと、あるでしょう?」 そこまで言うと、悠馬は苦笑いした。 「そんな必死にならなくてもいいじゃん。わかった、じゃあ、実家な」 私は恥ずかしくなって俯いた。 悠馬の言う通り、何をこれほど必死になっているのだろう。 ちらりと悠馬のほうを見ると、優しい笑みが帰って来た。 その日、悠馬は私に何があったのか聞かなかった。
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