そしてこれが現実である。

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「ちょっとマッキー!? ちゃんと聞いてる!?」  過去に飛びかけた俺の意識が、目の前の女の子に強制的に引き戻された。 テーブルより身を乗り出したその子は、明るい茶色に染め上げた“ゆるふわロング”を派手に揺らし、ばっちりメイクを決めた顔を俺の顔に近付けている。 罷り間違えば、キスとかしちゃう距離だ。 もういっそ不慮の事故を装って、そのぷるぷるとして美味しそうなピンクの唇を奪ってやろうか、なんて考えてもみる。 「あー、はいはい、聞いてる聞いてる、だから怒らないで続けて? ね?」  たがしかし、駄菓子菓子! 俺は健全で品行方正な十七歳で通してる、一本筋が通った高校二年生なのだ。故に、にっこり笑って続きを促す。 あぁ、おっぱい饅頭的なお菓子が食べないな。 残念ながら、目の前にはまな板しか無いのだけれども……。 「ちっ、死んだ魚みてぇな目で作り笑いしやがって……まぁ、良いや。何処まで話したっけー?」 「彼氏があまりにも性悪で下手くそだから別れたって所まで、かな? 何で俺が放課後の貴重な時間使ってまで、そんな話を聞かされなきゃならないのかな? ねぇ、もう帰って良い?」 「駄目に決まってんだろが、アホかお前」  そっくりそのままその台詞を返したい、今しがた舌打ちして乱暴に腰を下ろしたこの子こそ、俺が思い出しかけていた幼馴染みの女の子、蒔野 菜々子(まきの ななこ)。 あまりの違いに、俺はもう泣きそうです。どうしてこうなった、何だよこのコレジャナイ感。いい加減にしろよ、この現実! 「だぁー!? 顔良いからって何だよあの短小野郎! 思い出したら腹立ってきたわ畜生めぇ! いい加減にしろっての!」 「あははー、こっちの台詞だよ畜生め」  俺は激しく台パンする彼女から視線を外し、痛すぎる視線に周囲を見回す。 うん、ここは自室でも放課後の教室でもない、安さが売りの某ファーストフード店の一席。 他の客や店員の殺意の視線は、何故か俺に降り注ぐ。 何時もの事だが馴れるものじゃないねぇ、こればっかりは……。 「ほら、そろそろ帰るぞ、迷惑だから続きは俺の家で……」 「てめぇら動くなぁ! 強盗様だゴラァ!?」 「不景気日本に大打撃、真面目に働くそれ負け組、強盗勝ち組チェッケラッチョ!」 「でゅふ、でゅふ、でゅふふ! レアドロップとゴールドを寄越すでおじゃるよ!」
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