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「ありがとう、真央」
頬に伝う涙を拓実が指ですくってくれる。私は、彼の肩に積もった雪を払う。
これが、互いの体に触れ合う事のできる最後のチャンス。
そのことを慈しむように、私たちは互いの体を遠慮がちになで合う。それは、これまでしたどのセックスよりも尊い触れあいだった。
雪も、涙も、止まることはなかったけれど、でも、いつもまでもこうしてはいられない。私たちは、別々の道を歩む決断をしたのだ。そろそろ行かなくては。
私は、頬をなでている拓実の手をそっと止めると、一つ後ろに下がった。
「そろそろ行くね」
「ああ…。元気で」
「拓実も」
拓実の表情が固くなる前に、私は背中を向け歩き出した。
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