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そのくせ、一つ、また一つ拓実から遠ざかるたびに、私は心の中で祈った。
お願い、拓実。私を呼び止めて。今ならまだ間に合うから。お願いよ、拓実…。
後悔していないなんて、嘘だ。覚悟なんてできていなかった。だって、まだこんなにも拓実が好き。叫び出しそうなほど彼を求めている。もう一度触れたくてたまらない。愛してる。
やっぱり、私は…。
「拓実!」
けど、振り返ったとき、すでに、そこに拓実の姿はなかった。
拓実の立っていた場所が、うっすらと溶けてコンクリートが透けている。けど、それはすぐに雪に覆われて見えなくなった。
まるで、初めから拓実がそこにいなかったとでも言うように。
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