隠れた太陽

2/18
前へ
/124ページ
次へ
今思うとそこまで好きではなかったのかもしれない。 よく女性アーティストが歌っている、あの気持ちはよくわからなくて、だけどわかるフリをしていた。 「なあ美羽明日ひま?」 もうすっかり寒いのに、この街では雪の気配などこれっぽっちもない。 「んー、明日ゆっくりしたいから無理。」 毎週週末になると、あたしは1時間かけてこの街へ来る。 そして決まってこの店のこの席で、彼と決まったメニューを頼む。 「なんだよそれ暇だろ。新しいギター探したいんだ、付き合ってよ。」 雄大は椅子の横に立て掛けていた黒くて長細いケースを手に取り、嬉しそうに、でも名残惜しそうにそれを見つめた。 「それは?」 あたしはオレンジジュースのストローをくわえたまま、そのケースに視線を向ける。 「これよりいいやつ買うんだよ。バイト代やっと貯まったんだ!来月大事なライブあるし、ちょうどいいだろ。」 「しょーがないな。夕方ね。」 雄大は満足げにはにかむ。 茶色くてツンツンした髪とは対照的に、彼の笑顔は幼い。
/124ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加