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バスを降りて、二人黙々と山を登る。小さな山なので小学生が遠足に来るくらいだ。
「遅かったな、お前ら」
「先生」
林の影から現れた、黒い翼を持つ彼に向かって呟いた。鼻は長く、勇ましい顔つきの彼は天狗だ。
私達は毎日、彼に教わっている。
この力の使い方を。
※※※※※※※※※※
「星谷さん。お昼ご一緒に食べない?」
鈴森さんは私の意見を聞くこともなく私の隣に座った。私は毎日裏庭でお弁当を食べている。
彼女にはそれが寂しく見えたのかもしれない。
「星谷さんのお弁当美味しそう。お母様料理得意なのねぇ」
「これは、自分で作ったの」
「まぁ!素敵!星谷さんお料理上手ね」
鈴森さんは身を乗りだしながらお弁当と私を交互に見た。
「できるだけ。できるのと、上手は違うと思う…」
「あら素敵よ。私なんてお料理は駄目なの。直ぐに焦がしちゃうわ」
鈴森さんは楽しげに笑っていた。コロコロと表情を変え、お弁当に箸をつけながら忙しなかった。
ダンス部の話、授業の話、家にいるペットの話。私は、聞いているだけ。キラキラと顔を輝かせる姿は可愛らしく女の子だと思った。
「星谷さん。お名前で呼んでも良いかしら?とっても素敵なお名前なんですもの。そちらで呼びたいわ。私も月子と呼んで下さらない?」
「…良いよ」
特に断る理由も無いので承諾すると彼女は嬉しそうに笑った。素敵な名前。初めて私の名前を好きだと言ってくれたのは彼だった。
「素敵な名前よね。あの花からつけたのかしら」
「…死んだお母さんが好きだったみたい。お父さんが言ってた」
「素敵なお名前ね」
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