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「二人は駆け落ちしようとしたらしいです。ここで待ち合わせをして…ですが彼女はここに来る途中で事故に遭い、亡くなりました」
「彼は?」
「……彼も場所は違えど事故に遭い亡くなりました」
まるで物語のような結末。それでも会えないのはどちらか先が行ってしまった。天国に。
「……なぜ私に正直に話すんですか?」
学園で起こった不祥事を素直に話すなんて大人がするような事とは思えなかった。校長先生は懐かしそうに笑った。
「…そうですね。本当は隠さないといけない事なのかもしれません。でも、貴女は知りたかったのでしょう?彼女の事が」
不思議な人。彼は見えてはいないはずなのに彼女がいるかのように話す。
私は数珠に触れた。
「…それでは、私はバラ園に行きますので失礼します。ごきげんよう」
「ごきげんよう」
私はゆっくり教会に近寄った。水口に知れたら馬鹿だと言われるかもしれない。無用心だと分かっていた。
それでも私は彼女を見捨てることはできない。だって、彼女は。
ゆっくり扉を開けた。中は静まり返っていた。昼間と同じように彼女は窓辺に佇んでいた。
私は鞄を置き、扉を閉めた。数珠を鳴らしながらお経を呟く、彼女はやっと気付いたのか私を見た。さっきとは違い私を敵として見ている目だった。
「…ごきげんよう」
『貴女、私が見えるの?』
彼女は警戒しながら私を見つめていた。私は数珠をかざしながら彼女に歩み寄った。その度に彼女は後ずさる。
「貴女の待っている人は来ない。大人しく成仏した方がいい…」
『あの人は来るわ。必ず来ると約束したもの』
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