序章・始まりの朝

2/10
前へ
/474ページ
次へ
右か。 左か。 最寄り駅から会社までは直進で800メートル。 左に曲がって更に100メートルちょっと。 この最初の直進を右側の歩道を歩くか、はたまた左かでその日の始まりの大切なものが決まる。 改札を出て思案すること数秒。 「今日は……右、だな」 1人で呟いてから早足で歩き出した。 1月下旬。寒さが一番厳しい季節だ。 ぐるぐる巻きにしたマフラーに出来るだけ顔を埋めながら目的地を目指した。 「あらー、純ちゃんおはよう」 直進を半分ほど歩いた右側の歩道沿いににあるおむすび専門店『MY米(マイマイ)』 昔ながらの引き戸をガラリと開けて入った俺を明るい笑顔が迎えてくれる。 「今週は勝率いいね?うちの店」 そう言ってガハハと豪快に笑うのはこの店のおかみである明恵(アキエ)さん。 「そうだね。今週は右側ばっか歩いてるかも」 「毎日右側歩いておいでよ。 やっぱり1日の始まりは米食べなきゃ元気でないだろう?」 明恵おばさんの言葉にクスリと笑う。 「まあね? だけど、あそこのコッペパンサンドもボリュームあるから捨てがたいんだよね」 俺が顎で指し示すのは『MY米』の斜め向かいにある惣菜パンの店『アンソニー』 俺が今日左側を歩いていたら目的地はあそこになっていた。
/474ページ

最初のコメントを投稿しよう!

520人が本棚に入れています
本棚に追加