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死んだように静かな街。私は廃墟と化した建物の隙間を歩いた。
足元にはガラスの破片が敷き詰められ、パリパリと踏み砕く音がする。街灯などはないが、月明かりが破片に反射して歩くのに不自由はしなかった。
崩れたマンションの外壁からは鉄筋が何本か突きだしていて、支えを失った瓦礫が落ちて砂ぼこりをあげた。
戦争の爪痕をそのまま残したこの街に、私以外の生物はいない。いるとすれば、焼死体にたかる蛆虫やそれの成長した姿くらいだろう。
ここに住むようになったのは、復讐を心に決め、屍の山を築く道を選んでからだ。どのような人間であれ、人を殺すということを社会は認めない。だが社会から見放され、時間の経過とともに荒廃を続けるこの街だけは、私を静かに容認した。
緑に変色したコンクリートの壁を手でなぞりながら建物に入る。窓ガラスは一つ残らず割れていて、外の空気を風が運んでくる。むぅっとしたカビ臭さが鼻孔を刺激するのも、随分と慣れた。
銃で撃ったときの、汚い反り血を流してしまおうと水場に行って蛇口をひねる。錆びなのか、土なのか、茶色の液体がドロドロと流れて、しばらく待っていると透明なものになった。両手で水をすくい、顔を洗う。何ヵ所か崩れ落ちた天井から僅かな月明かりが差しこみ、ヒビの入った鏡に自分の姿が映った。
ひどい顔だ……。
頬は痩け、眼は窪み、眼窩が浮き出ていた。その下には泣きぼくろがあるのだが、魅力的なものというよりも疲労感を漂わせるシミにしか見えなかった。
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