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* * *
気がつくと、僕たちは建物の中にいた。長い間放置されて荒れ果てた、だだっ広いビルの一室のようだった。むせかえるカビの匂い。散らばったガラスの破片。
遠くで銃声が聞こえて、僕はハルカの手を握って走り出した。
――ここにいてはいけない。逃げないと。
銃声がそう思わせたのか、それとも現実離れした廃墟のせいか、何が原因でそういう思考に至ったのかは自分でもわからない。もしかしたら本能というやつなのかもしれない。
逃げる僕たちを誰かが追ってくる。そいつから離れるのに必死で、どんなやつなのかも知らないが、確実に銃を持っている。
いそげ! 少しでも遠くへ。
焦る僕の右手にグンと負荷がかかる。振り向くと、ハルカの足が止まっていた。
「ハルカ! 早く逃げないと」
「どうして、逃げるの?」
ハルカは俯いたまま話す。
「このままじゃ二人とも殺される!」
「……殺される?」
「あぁ、そうだよ。……ハルカ?」
彼女の様子がおかしいが、長い前髪に隠れて表情が読めない。そうしている間にも、銃を持ったそいつは眼と鼻の先くらいまで近づいてくる。
「逃げる必要なんて、ないじゃない。だって――」
ハルカが顔をあげる。白く綺麗な顔が赤黒い液体によって染まっていた。眉間に穴があいていて、そこから流れる血が眼球をわたって顎からしたたる。
――だってもう、死んでいるのに。
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