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「ハルカ!」  僕は布団を払いのけた。まるで本当に全力で走ったように、全身からじっとりとした汗が吹き出していて、呼吸が苦しい。  ……夢か。  額の汗を袖で拭って、息を吐く。目蓋の裏にはまだ、血まみれになったハルカの顔が残っていた。  それにしても、なんて目覚めの悪い夢だ。こんな夢を見るのも、きっと昨夜の出来事のせいだ。  僕はカーテンの隙間から窓の外を見た。清々しい朝日を浴びた墓石が目にはいったが、その周囲には死体どころか血痕さえない。砂利を押しのけるように生えてくる雑草が青々と伸びているだけである。  幻聴の次は幻覚でも見たのだろうか。しかし、あの時の生ごみのような腐敗臭や死体の生々しい存在感が、幻だったとは思えない。それとも、僕の頭がイカれてしまったのだろうか。  窓からはなれて、汗でベトベトした顔を水で洗った。できれば悪夢の嫌な気分も流してしまいたかったが、どうしても払拭できなかった。  どちらにしろ、一度診てもらった方がいいかもしれないな。僕はスマートフォンをタップした。  ハルカから紹介された病院は徒歩で行けるくらい近くにあった。  総合病院のような大きな病院ではなく、数人の医師が出入りするような小さな病院だった。リノリウム製の床は一部が剥げていて、白い壁の角がすすけている。内装は新しいのだがどこか年季がはいっている診察室。そこには若い女医が机に向かって座っていた。
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