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 背もたれのない回転式の丸椅子は、座るとギシギシと音がなった。 「結城さん。今日は妹さんの紹介かしら?」 「あ、いえ。知人から紹介されました」  突然、妹が出てきて少し返答に困った。  そういえば、最近は妹と連絡を取っていない。今はどこで何をしているやら。 「あら、そうなの」と呟きながらこちらを向くと、縁のある眼鏡と女優のようなくっきりした顔が近づいた。白衣の左側に名札がある。名札には『西塔』と書かれていた。  あまり聞かない、珍しい名前だ。ニシトウと読むのだろうか。 「今日はどうしましたか?」  無機質なマニュアル通りの質問は、整った顔と相まってロボットのように感じた。 「実は最近、幻聴が聞こえるんです」  僕はうつむいて、一つひとつ話した。  最初は特に気にもとめていなかった。例えばライブハウスでスピーカーから響く大音量を聴いたあととか、飛行機の離着陸のときのような、鼓膜の奥から鳴るキーンという甲高い音が聞こえていた。あるいは風が木の葉を揺らすような、虫がさざめくようなザワザワしたものだった。  それが次第に大きくなり、耳の奥にあった音が体内を抜け出して膨れあがったように僕を襲った。  甲高い金切り音は銃声となり、木の葉が揺れる音は人々の呻き声になっていった。 「もしかしたら、隣人のラジオかテレビの音ではないかと思って、大家さんに言ったんです。でも隣は空き部屋だと……」  話している間に、大家さんの訝しげな顔を思い出した。そして、もしかしたら先生もそういう表情をしているのではないかと、ちらりと顔を窺った。
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