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西塔先生は怪しむでもなく驚くでもなく、変わらず無表情だった。
いくつか簡単な質問をしたあと、僕の視線に気付いたのか少しだけ目を細める。
「最近は多いのよ。そういう症状の方。このご時世だから、精神的に不安定になるのね」
あまり慣れていないのか、引きったような笑顔を見せる。僕は何故か、そこに好感を持ってしまった。恐らく、よく似た人物が身内にいるからだ。
「ニシトウ先生は、妹と知り合いなんですか?」
西塔先生はニシトウではなくサイトウだと緩やかに指摘して「彼女とは、そうね。腐れ縁みたいなものかしら」と答えた。
「少し前にも会ってるし、貴方のことも沢山きいているわ。ゲームを作ってるんでしょう? 面白かったわよ。貴方のゲーム」
戦争アクションの話をしているのだろう。人差し指と中指で銃を真似て、「バン」と小さく声を出す。落ち着いた見た目とのギャップに、思わず吹き出した。
「あの妻と子供を殺された主人公は今後どうなるのかしら」
眼鏡の奥にある色素の薄い瞳が、らんらんとしている。もしこれが漫画の世界ならば、きっと背景にはキラキラしたものが浮かんでいるはずだ。
「今、その続きを作っていますよ」
口に出すと同時に、ぐちゃぐちゃになっているプログラムを思い出して頭が痛くなった。僕の周囲と同じ、ぐちゃぐちゃになった世界。
ああ、そうか。僕の身の回りで起きている様々な現象はまるで――。
「まるでコンパイル・エラーだ」
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