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* * *
妙だな……。
私は目だけを動かして、周囲を確認する。
結城耕平のアパートを訪れたあの夜以来、どうにも彼の気配がない。
アパートの周辺。近くの公園。河川敷。墓。会社。病院。思いあたる行動範囲を探したが、どこにも彼の姿はない。しかし、その所々に足跡はある。
何処か遠くに行ってしまったような、それでいて近くに居住しているような。まるで私だけが結城耕平から切り離されて、別の世界に行ってしまったような不思議な感覚だった。もしくは、その逆か。
街中の静寂に乾いた銃声が響き、私の足元の瓦礫に穴があいた。
どうやら、奴等に見つかったらしい。私は逃げる振りをしながら、ある場所へと誘導した。
奴等を殺すのは容易だが、ここで殺すのは利口ではない。私は墓のある堤防へと向かった。
別にそこに罠を張っているとか、そういうことではない。単純に死体をわざわざ墓石まで運ぶのが面倒なだけだ。どうせ墓に山積みにするのならば、近くで殺した方がいい。
堤防で少しばかり殺戮したあと、斜面に数人分の死体を転がす。最後に生き残った一人の首にあるドッグタグとロケットペンダントを奪って、中身を確認した。
「ほう、子供がいるのか」
若い女性が幼い少女を抱いている写真があった。ドッグタグにはそいつの居住地が記載されていて、それを口に出して読み上げる。
「安心しろ。家族もすぐに送ってやる」
死にかけて生気を失っていた顔が一変する。困惑、そして恐怖、絶望、怒り、憎しみ。あらゆる負の感情を孕んでいた。
私はその顔を侮蔑するように口角を吊り上げ、引き金をひく。
呪いの言葉を吐きながら息絶えるのを見て、ようやく復讐に悦びを感じた。
――そう、これだ。私の求めていたものは。
結城耕平が私の前に現れたのは、それから二週間後のことだった。
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