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―――くそ。まただ。
僕は眉間にしわをよせて、こめかみを押さえた。
銃声が聞こえた。それに断末魔のような叫び声も……。
四畳半の部屋の西側にある窓から外を覗く。アパートの目の前には川が流れていて、その間には堤防がある。
春を迎えたばかりの堤防の斜面には、雪の重みのせいでぺしゃんこになった枯れ草からフクジュソウの黄色い花がのぞいていた。その先には石を積み上げただけの簡素な墓がひとつだけある。
銃声も、叫び声も、その墓の方から聞こえたはずなのだが、周辺に人影はない。
きっと誰かが銃で撃たれたのだ。そうに違いない。警察に連絡するべきだろうか。
ポケットからスマートフォンを取り出し、110とタップした。あとは画面の発信を押せば、警察のパトカーがサイレンを鳴らして駆けつけてくるはずだ。
しかし……。
発信を押す手を止める。画面の直前まで伸びていた指が、震えていた。
もしかしたら、今回も同じかもしれない。
僕はもう一度、窓の外を見た。世の中は平和だ。銃を持った凶悪犯なんていないし、その標的となった憐れな被害者もいない。
僕は恐る恐る鍵を開けて、窓を数センチずらした。
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