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ぶらりと下ろした右手には、華奢な体とは不釣り合いな重量感のある拳銃。その銃口から出る火薬の匂いが鼻をついた。
銃から放たれた弾丸は三発。一発は男の頬をかすめ、残りの二発は両足を貫いた。
移動力を失った男は、呻き声をあげながら腕の力だけで私から離れようとする。その姿はまるで芋虫みたいだ。弾丸が貫通した箇所からはおびただしい血液が流れていて、砂利の上に引きずった跡が赤く染まった。
橙色の太陽が川沿いの堤防を照らし、枯れた雑草が倒れている斜面に二人の影をおとした。頂部の天端は細い砂利道になっていて、血のついた小石が私と死にかけの男の間を天の川のように繋いだ。
私は血の天の川を渡りながら、重たい銃を胸元まで引き寄せ弾倉から次の弾丸を送り込む。
織姫と彦星が会うのには一年の時間がいる。だが私が芋虫のように這うそいつにたどり着くのに、十秒もかからなかった。
「言葉は通じるか?」
後頭部に銃口を押し当てて尋ねる。男が振り向いたために目があった。命乞いをする目だった。もしかしたら家族がいるのかもしれない。愛する人がいるのかもしれない。だが、そんなこと私には関係がなかった。
男を蹴り飛ばし、河川敷に落とす。男の体はごろごろと斜面を転がり、平らな所で止まった。そこにはただ石を積み上げただけの墓があった。
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