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 玄関口は等しく東側にあり、脇にある鉄製の古い外階段をあがって上の階に行ける。  カツン、カツン……。  少し錆びた鉄の階段は、足を踏み出すたびに軽快な音を立てた。簡素な造りで、段の隙間からは下が見える。一段あがるごとに、自分の体が天国に近づいていくような奇妙な感覚を覚えた。  いや、天国に行くには少しばかり人を殺しすぎたな。  そんなことを考えて苦笑しているうちに三階まで辿りついた。  目的の部屋の前に立って呼び鈴を鳴らしてみる。  しばらく待ってみたが反応がない。留守か、それとも隠れているのだろうか。鍵を破壊して押し入ってやろうかと考えたが、驚いたことにドアには鍵がかかっていなかった。  不用心だな……。いやしかし、好都合だ。  そのまま中に侵入して、数歩先の四畳半の部屋にゆっくりと移動する。  カーテンの閉じた薄暗い部屋の中を見渡して、舌打ちした。  そこに結城耕平の姿は見当たらない。ただ丸まった布団が置いてあるだけだった。
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