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「そういえばさ、ハルカ。さっき変な音とか声とかが聞こえなかった?」
幻聴のことを試しにきいてみる。先ほどの銃声や呻き声が本当に起こったことならば、外にいたハルカも聞いているはず。
「変な音? してないと思うけど……」
少し考えるように首を傾げたが、思い当たるふしはないらしい。ハルカには聞こえていない。それならば、やはりアレは僕だけに聞こえる幻聴だったということだ。
「どうしたの? 顔真っ青だよ。いい病院、紹介しようか?」
僕の顔を心配そうに覗きこむハルカに「いや、なんでもない。大丈夫だよ」と応えて首をふる。
「きっと疲れているんだよ。そうだ花見に行こう。世の中は桜が満開だよ」
半ば強引に手をひかれて、外に出る。流石にいい大人が蛇を捕まえたりはしないとは思うが、少し顔が強ばった。少し錆びた鉄製の階段をおりて、アパートの塀を道路の方に曲がるときに、ふと見慣れない女性が立っているのが見えた。
少しだけ歩いたあと、なんとなく振り返ってみると、もうその女性は消えていた。
僕達は川沿いを歩いて近くの公園に行った。しだれ桜の木には薄桃色の花びらが開いていて、夜風にあたりながら眺めた。途中でコンビにからビールを買ってきて、程よく顔を赤くした。
袋いっぱいに買ってきたビールの最後の一本が空になったころに、二人だけの花見は現地解散となった。ふらふらと川沿いの堤防を歩いていると、異臭が鼻をついた。
酔っていたために正常な判断をすることができなかった。
もしできていたならば、異臭の原因に近づこうとは思わなかったはずだ。僕は胃の中のアルコールをすべて吐き出した。
四畳半の部屋から見える石の墓。そこにはおびただしい量の死体が積み上げられていた。
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