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「不要な骨だから放置可って…、あなたはドクターだからそんな簡単に言いますけどね、一般人は痛けりゃそんな風に割り切れませんよ?」
「ところで、カルテ探しに来たんじゃないのか?」
「えっ?…はい、そうですけど…」…つーかっ、人の話聞けよ!
尖らせた口を、もはや諦めたようにへの字に曲げる。
「で、そのカルテは?足もとに何冊か散乱してるけど」
先生は私の背後に視線を飛ばす。
「へ?そうだ!香川さんに頼まれたカルテ!えっと……あっ、あれだ!」
私は彼から体を離し、目的のカルテの側に駆け寄る。
「待て。俺が拾う。しゃがむとまた痛いだろ?良いよ、落ちてるやつも俺が棚に片づけてやるから」
そう言って、先生は自分に近いカルテから順に拾い始めた。
「…ありがとうございます。お言葉に甘えて」
私はその場で立ち止まり、彼の厚意を嬉しく思いながらしおらしく頭を下げた。
「1が茶色…2が黄色…3が緑…何だ?この数字ごとの色分けは」
先生はカルテ番号に使われるシールを見つめ、首を傾げる。
「カルテは下桁で探していくので、数字で色分けして収納していくんです。えっと…その二冊は上から二段目。これは一番上ですね」
「…ああ、そうか。探すコツが分かった」
私の指示するままに、…いや、途中から指示など要らずに先生は手際よく次々と棚に入れていく。
全てのカルテが棚に納まった直後、
「…あの、今更なんですけど…先生はどうしてここに?」
全くもって今更な質問をしてみた。
「麻弥と、エッチな事をしに」
「えっ!?エッチな事っ!!」
「って言うのは冗談。これを渡そうと思って」
先生はさらりと言って、白衣のポケットに手を入れる。
……何だ、冗談か。「チッ」―――と、心の中で舌打ちしてみた。
ポケットから姿を現し、目の前に差し出された小さな紙。
「俺のメアド。昨日、教えそびれたから。仕事終わったら寄るとこがあって、直ぐに携帯出れないかも知れない。支度できたらメールして」
そう言って、先生は私の手のひらに紙を乗せた。
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