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「…はい、分かりました」
渡された二つ折りの紙を見つめ、私はこくんと頷く。
「5時28分…。まだ仕事終わらないのか?」
先生が腕時計に視線を落として問う。
「このカルテを香川さんに渡したら終わりです。…あ、普段は残業になることほとんどありませんから。明日からの咲菜ちゃんのお迎えは大丈夫です」
先生が19時までに行く保育園のお迎えを心配しているのかと思い、慌てて言葉を返した。
「今後、どうしても残業になりそうな時は杏奈に連絡してくれ。そこに杏奈の携帯番号とメールアドレスも書いてある」
「杏奈さんに…ですね」
紙を広げ、羅列された番号と英数字を目で追った。
「じゃ、そういう事で」
言葉を短く切って、先生が一冊のカルテを差し出す。
それは、お尻を負傷する原因となった目的のカルテ。
あっ、そう言えばまだ受け取ってなかった!
先生が「エッチな事をしに」だなんて動揺させるから
――忘れてましたよ。この存在を。
上目使いで何と無く照れ笑いを浮かべ、カルテを受け取ろうと手を伸ばす。
それを掴んだ直後、先生の手はカルテから離れそのまま私の腕を捕らえた。
えっ!?
先生の胸もとに引き寄せられる私の身体。
首筋に近づく先生の熱。
「…んっ……ぁ…」
右の耳朶に、先生の唇が触れた。
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