ケンカがあるから仲直りがある。

8/10
前へ
/498ページ
次へ
 1分と経たずに声の主、つまりきっかの兄貴は現れた。  きっかの兄貴は頭や手に包帯を巻いていた。左手にはギブスを付けている。  祭りの時の怪我だ。  そうだ。オイラまだ、あの時の礼言ってねーや。 「よく逃げずに待っていたな。いい覚悟だ」  扉の向こうから殺気を放ち迫り来るきっかの兄貴に、 「きっかのあんちゃん!」  反射的にオイラは腰を直角に曲げた。 「あの時は助けに来てくれてありがとうございました!」 「あ、ありがとうございました!」  あおばも同じように背中を曲げる。 「……言いたい事はそれだけか?」 「それと、オイラきっかに謝りたいんだ! きっかを呼んでくれ……いやください!」  きっかの兄貴の薄い眉毛がピクリと動く。 「やっぱりてめえか。きっかに何かしやがったのはよお……?」  ガバッと顔を上げ、殺し屋のような鋭い目を見ながらオイラは打ち明けた。 「ああ! オイラがきっかを泣かせた! オイラが全部悪い! 殴ってくれてかまわねえ!」 「お、オレもその、い、一発だけなら……」  顔を伏せたまま、あおばも続く。  きっかの兄貴は右手を顔のところに上げてギュッと握った。 「くくく……相変わらず馬鹿正直な奴だぜ。お望み通り、お前も泣かせてやるよ……!」  恐怖からか。それとも観念したからか。オイラの目から涙が、そして口からは自然と言葉が溢れ出す。 「そうさ……。オイラ馬鹿だから、ちゃんと宿題できなかった。馬鹿だから、友達の気持ちにも気づけなかった」 「あ?」 「馬鹿だから……こうやって謝るしかないんだ!」  そう言ってオイラは、今度は逆に体を反らせ、息を思いっ切り吸い込んだ。  そして、思いと一緒に一気に吐き出した。
/498ページ

最初のコメントを投稿しよう!

75人が本棚に入れています
本棚に追加