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1分と経たずに声の主、つまりきっかの兄貴は現れた。
きっかの兄貴は頭や手に包帯を巻いていた。左手にはギブスを付けている。
祭りの時の怪我だ。
そうだ。オイラまだ、あの時の礼言ってねーや。
「よく逃げずに待っていたな。いい覚悟だ」
扉の向こうから殺気を放ち迫り来るきっかの兄貴に、
「きっかのあんちゃん!」
反射的にオイラは腰を直角に曲げた。
「あの時は助けに来てくれてありがとうございました!」
「あ、ありがとうございました!」
あおばも同じように背中を曲げる。
「……言いたい事はそれだけか?」
「それと、オイラきっかに謝りたいんだ! きっかを呼んでくれ……いやください!」
きっかの兄貴の薄い眉毛がピクリと動く。
「やっぱりてめえか。きっかに何かしやがったのはよお……?」
ガバッと顔を上げ、殺し屋のような鋭い目を見ながらオイラは打ち明けた。
「ああ! オイラがきっかを泣かせた! オイラが全部悪い! 殴ってくれてかまわねえ!」
「お、オレもその、い、一発だけなら……」
顔を伏せたまま、あおばも続く。
きっかの兄貴は右手を顔のところに上げてギュッと握った。
「くくく……相変わらず馬鹿正直な奴だぜ。お望み通り、お前も泣かせてやるよ……!」
恐怖からか。それとも観念したからか。オイラの目から涙が、そして口からは自然と言葉が溢れ出す。
「そうさ……。オイラ馬鹿だから、ちゃんと宿題できなかった。馬鹿だから、友達の気持ちにも気づけなかった」
「あ?」
「馬鹿だから……こうやって謝るしかないんだ!」
そう言ってオイラは、今度は逆に体を反らせ、息を思いっ切り吸い込んだ。
そして、思いと一緒に一気に吐き出した。
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