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影は凶器を不知火の腹の奥へと突き刺し、引き抜いた。
不知火が、音もなく倒れた。
滲み出した血液が、不知火の持っていた壺を汚す。床に叩きつけられた拍子に壺は割れていた。
誰かの足音がした。
影は、凶器を投げ捨てる。
凶器が、床に跳ねた。
不知火の命に逆らえない憐れな骨董品だと気がついた影は、棚と棚の間に身を潜める。
「不知火……様?」
骨董品が、部屋に足を踏み入れ、異変に気付く。
「……っ! い、いやっ!」
倒れている不知火に骨董品は近寄り、不知火の身体に触れたのだろう。悲鳴を響かせ、慌てふためいて倉庫をを出ていった。
影もまた、倉庫を出て、雨合羽を焼却炉に投げ入れた。執事が、焼却炉に火を入れたことをみはからってのことだった。
空に夕暮れの美しさは何処にもない。先程の光は、雲に隠れた。冷たい風ばかりが吹いて、春の癖に寒い。今から天気は崩れる。夜は大荒れだ。
影は、台所の勝手口から屋敷へと戻る。
今時珍しい黒電が、じりじり鳴っていた。
この時、外部から客人が来ることを事前に知っていれば、影に勝気はあったかも知れない。
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