一章 雲行き怪しく、春まだ、遠く

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そんな悪巧みをする赤石の前では、二人の連れが遺体と向き合う。品定め中の眼差しだ。声を掛けるのも憚られる。 倉庫は、ちょっとしたパニックなのではないかと、赤石は思考を落ち着かせるべく、深呼吸をした。遺体がある場所で深呼吸をしても空気は美味しくもないが、それくらいしか、気を治める方法が思い付かなかった。 「きっと、僕のせいですね。死神さんが着いてきたんです」 如月桃磨は、不知火を観察する。俯く桃磨の頬に細い髪が掛かる。赤石を無視しているのかもわからない。視線は、遺体を直視していた。その表情はどこまでも真剣で、桃磨が自分より遥かに年下であることを忘れてしまいそうであった。 「それにしても、こんな孤島で、しかも、封鎖空間出来上がってますもんね。偶然にも」 不知火の遺体を写メに収め、結城イサコが、呆れたように外を見る。彼女も刑事で、赤石の同僚であった。 倉庫の外では朝から霙が降っていた。倉庫の床には血液が広がり、不知火孝二の遺体は、放置されている。死因は、鋭利な刃物によるものだ。凶器は、床に落ちていた。出刃包丁だった。血液が固まっている。血液を拭い損ねたのかもしれない。指紋も拭い損ねていてくれればと僅かに思う。鑑識が来ない限り調べようがない。調べるにも駐在所もその機材もない。
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