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人と、夜魔と、それを狩る者が存在する世界。
生と死の歪な境界の狭間で漂い揺れる世界、オズワルド。
そのオズワルドの外れに広がる、深く静かなヴェデラの森からユーリエが姿を消してから、今日で既に二ヶ月が経っていた。
今日も主たる術師が消えて久しいあの小さな邸宅に足を運び、改めてかつてのパートナーの不在を認め、そして大きく溜息をつく。
私と少女の間に跨る二ヶ月という空白の時間は、何の予告も前触れもなく突然に私の前から消えた少女と最後に言葉を交わしたのはいつだったかという事さえも忘却の彼女方へ消えてしまうくらい長いそれのようであり、ほんの刹那のようでもある。
少女と過ごした日々。そこにある数多の想い出を指折り数えてみても、一体人間の手があと何対あれば全て数え終えるのかも分からない。中にはどうしても思い出せないものも存在する。
恐らくは多すぎて少しずつ希薄なそれになり、次第に記憶の引出しの中で風化し、自然に消えてしまったのか……。
兎に角、正確な想い出の数は今ではとても数えられない。日記の一つくらい付けていればよかったと軽く後悔する。
二ヶ月前のあの日から……不安、苛立ち、焦燥感といった感情を、私が一時でも憶えなかった日は一度たりともない。全ては少女が何の挨拶も無しに消えてくれた所為。
もしも彼女と再会する事ができたらまず何を言ってやろうか、毎日そんな事ばかり考えていた気がする。
とはいえ、オズワルドという狭い箱庭のような世界からほんの小さな杭打つ者が一人消えた程度では、見ている側が呆れ返るほど平和ボケした住人の心に波風を立てるような事などなく…………。
今夜も山の中にあるバンドォ教会の礼拝堂は人間、術師問わず多くの者達が酒盛りに明け暮れ、ある者は伊達比べと称する派手な手合わせに興じている。
勿論私もそこにいて、硝子の小さなタンブラーの中のワインを揺らめかせ、それを少しずつそれを口へ運びながら……教会に屯する人間達の中に、あの日からずっと探し求めてやまない少女の姿を探している。
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