第一楽章 【絃と翼の敷衍曲(パラフレーズ)】

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 やはり、今日の宴席にも彼女の姿はない。こういう賑やかな場が何よりも好きな、誰もがすっかり見慣れた筈の人の姿が……二ヶ月前にその行方を絶ったユーリエの姿は今日も、黄昏時のこの教会の何処にもない。  それだけで、いつもと変わらぬ夜会の筈なのに、大きな違和感を感じてしまう。バンドォ教会で夜会があると聞けばすっ飛んで現れ、時に自ら幹事を買って出るほど彼女等の間では目立つ存在であったユーリエ。  今そのユーリエはここにはおらず、しかし夜会の参加者達がそれを気にする様子は、私にはとても見受けられなかった。  まるでユーリエ=フローマーという少女など初めからこの世界にいなかった、むしろ生まれてすらいなかったかのように…………。  思わず、憤りに似た感情が込み上げる。  こうして夜会の席でめいめいにはしゃいでいる人間達を見ていると、どうしても思い出してしまう事がある。  とある日の昼下がり、新しく手に入れた魔道書を片手に気紛れにつけた年代物のラジオから流れたニュースに聞き入っていた私。丁度その時流れていたのは最近オズワルドで頻発している一つの事件だった。  オズワルドの術師が老若男女問わず、夜な夜なとある一人の少女に襲われ、全身の血を抜き取られて殺されるという事件である。  丁度ユーリエが失踪した一ヶ月後に最初の犠牲者が出て以来、それからほぼ二日か三日おきに術師が殺されているのだ。  このオズワルド始まって以来の術師を標的とした猟奇事件に彼等彼女等は須らく震え上がり……人間を襲わなくなったばかりか、夜間に人間の里に現れる事も全くなくなったのだ。  一部の力の無い術師達にとってはすでに異変レベルと言ってもいいこの事件。しかしこの教会ではそんな事お構いなしに、今日もいつもの様に夜会は開かれ、またいつもの様に勢力を問わず仲間はぞろぞろと集まってくる。
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