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皆、あの事件について一体何を考えているのだろう。
明日もこの面々と無事に酒を酌み交わす事が出来るのか、いやその前に次に毒牙に掛かるのは自分なのではないのか……そんな危機感を少しでも抱いている者はこの場に何人いるのであろうか。
すっかり顔も気心も知れたお馴染みの顔触れに、また明日も出会えるとは限らないというのに。
とはいえお気楽、もっと言えば平和ボケをを絵に描いたような術師や一部の人間達には、それを望むべくもないが……。
「何辛気臭い面してんのよ、ヴィオラ。今日は楽しもうよ、ね?」
「あ、ごめん。そうだよね…………」
後ろから響いた誘いの声は私の思考を半ば強引に寸断する。だが少々むっとしながらも私は自然に彼女等の輪の中に入っていた。
自己嫌悪だ…………。結局私も彼女等と同じ穴の狢、お気楽な術師の一人だという事か。
「ファニー…………」
「あら、ヴィオラじゃない。どうしたのよ」
お気楽な人間達の相手をするのに疲れ、彼女等と距離を取りたくなった私は、その足で一人礼拝堂の隅に佇んでいたファニーの元を訪れた。
「ちょっとね…………。隣、座っていいかな」
「はいはい、しょうがないわね…………」
相変わらずここ、バンドォ教会の聖女であるファニーは、特有の不機嫌そうな顔をしながらぼんやりと宴席の人間達を眺めている。
「あ~あ、今日もみんな楽しそうねぇ…………」
「全くね。んで終わったら何もせずに帰るんだし。後片付けする身にもなれって感じだわ。これだから術師ってのは厄介なのよ」
「本当。でも、あのお気楽どもにはそれを望むべくも無い……そうでしょ?」
「悔しいけど、その通り」
気だるげにそうささめいてみたものの、ファニーの口調はそれほど嫌そうではなかった。流石に仕事柄、彼の者達の相手をするのには慣れているのだろう。
一体その余裕が何処から来るのか教えて欲しい。欲を言えばそれを二割くらい分けて欲しい。
「そう言えば……今日も来てないわね、ユーリエ」
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