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ここで私はさり気無く、ユーリエの話題をファニーに振ってみる。オズワルドの管理者の一人、聖女の一人であるファニーであれば何かしら情報を掴んでいるかもしれない。
誰もが須らく日々張り詰めた心に隙が生じる夜会の時ならば、彼女から幾許かでもユーリエについての手がかりを引き出せる……そう考えたのだ。
「あぁ、ユーリエ。そういえば……失踪してから二ヶ月くらいになるわね」
「そうね。今日も確かめにいったけど、まだ帰っていないみたいなのよ…………」
「ふぅん…………。言っとくけど“別にそんなんじゃないわよ”って強がっても無駄だからね? あの娘が心配なんでしょ?」
「まぁ……ね。ファニーには敵わないわ。本当……一体何処にいるのかしら。アイツがいない間に私達は大変な事になっているっていうのに…………」
「さぁ……。ひょっとしたらイワンワシリーの辺りで迷子にでもなっているんじゃないの?」
(…………イワンワシリー?)
思わず、ハッとする。ファニーはユーリエの行方について「オズワルドの何処かで」ではなく、「イワンワシリーの辺りで」と言った。
普段誰に対しても明確な答えを出さない事で知られるファニーが、強く答えに繋がることを匂わせた……はっきりと、イワンワシリーという“場所”を口にしたのだ。
(間違いない……。ファニーは何か知っている…………ならば)
「だけど……決して探しちゃ駄目よ、ヴィオラ」
ここぞとばかりにファニーからユーリエの行方を聞こうとする前に彼女は言った。探してはいけない…………どういう事なのだろう。 私とユーリエの、付かず離れず違いせずの関係を知りながらもそれについて深く干渉する事はただの一度もなかったファニーが何故、今回に限って…………?
「ヴィオラ。どうせ貴女は聞かないでしょうが、せめて友人として忠告するわ……。これ以上ユーリエに深入りするのは止めなさい。私が言うのもアレだけど、貴女はどうも好奇心が強すぎる。自重しないといつかその代償……命で払う事になるわよ」
「ファニー…………」
それを最後に、ファニーの口は固く閉ざされた。
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