1人が本棚に入れています
本棚に追加
かれこれ数百年も昔の話だ。その両手に銀の杭と拳銃を携え、背中に巨大な十字架の形をとった剣を背負い、女王などと呼ばれた自分に単身で立ち向かった若者がいた。
割といい男だった。はっきり言って、好みだった。その身体に流れる暖かい血を吸い尽くして眷属として永遠に傍に置いておくのも一興だと思った。
しかし、その体から漂う血の香は、それこそ噎せ返る程濃厚なそれ。自分と同じ人ではない者は勿論の事、同族である人間も数え切れない程その手にかけて来たであろう事は、容易に想像できた。
赤色(レッド)、暗赤色(ガーネット)、臙脂色(クリムゾン)、紅色(カーマイン)、朱色(ヴァーミリオン)、真紅色(カーディナル)、緋色(スカーレット)……一口に赤色と言っても、この世には様々な赤がある。
彼女は赤が好きだった。まともな人間であれば五回くらい代替わりしているであろう永い永い年月を、あらゆる赤を啜る事で、若々しく美しい姿を保ち、生きた。
赤を……血を啜って生きる。彼女は、生まれてこの方その己の営みに疑問を感じた事はない。人がパンと葡萄酒(ワイン)と獣の肉を糧に生を繋ぐように、彼女は人の温かい生の証を糧に、永い永い時を生きながらえてきたのだ。
当然、盲目的に人の命を尊ぶ人の世が彼女のその行いを、もとい、彼女の存在そのものを赦す筈などなく。
幾人もの狩人とか呼ばれる人間が、彼女のもとへとやってきた。あるときは屈強な戦士、ある時は大自然を手にした若い娘、またある時は復讐心に身を焦がす年端もいかぬ少年。
最初のコメントを投稿しよう!