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剣が、銃弾が、絶え間なく襲い来る。
その爪でそれを跳ね除け、雷を、炎を、浴びせかける。奴はその全てを躱し、捌き、ほぼ瞬時に眼前の彼女へ肉迫する。
互いの存亡を賭した戦いは数刻ほど続いた。もっとも最後(オチ)は、ついに万策尽きたと思われた狩人の、思わぬ最後の一手(わるあがき)…………。
いつもどおりの圧倒的勝利を確信し、冷笑を浮かべながら狩人の傍に歩み寄った彼女は、すぐ目の前に倒れ臥した彼の若者が漏らす笑の意を解する事が出来ず。
当然、身体の中心に銀の杭がそそり立っている事さえ、理解できる筈もなく。
何故狩人の……下賎な人間の陳腐な騙し討ちに自分が引っかかってしまったのか、疑問に思う術もなく。
その激しい胸の痛みと熱に、彼女の体は大地に屈服した。星のない夜空を背景に見上げた狩人の顔には、深い深い笑が刻まれていた。
それはそれは今まで自分が餌食にしてきた人間達に向けてきたそれより、ずっと冥い笑だった。
杭がホンの僅かに心臓を外れたのは狩人にも僅かな逡巡があったのか、一端に慈悲でも掛けたつもりなのか、それとも逆に余計な苦痛を長く味わわせるためにわざとそうしたのか。
とにかくその結果、今日この時までの……まさに悠久のそれに近い永い永い時を、彼女は、ありとあらゆる痛みと共に過ごした。
“恐怖”も、“怒り”も、“悲しみ”も感じなかった。ただ只管、痛みしか感じなかった。
奴の中に何があったのか、奴を駆り立てるのは何だったのか、分からないまま彼女は痛みに耐え続けた。
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