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永劫に限りなく近い苦しみの果てに、痛みの中に見出した何か。
それを確かめる為に皇女は白銀の杭を掴む。不浄なる者を退ける力を秘める銀の杭は、一切の容赦なく、握り締めた皇女の両の掌を焼く。
それでも彼女は、杭を握り締めたその手に力を込める。あの日から……いや、あの日よりずっと前からの疑問に、答えを出すために。
少しずつ、少しずつ、そこに墓標のごとくそそり立っていた杭は音もなく彼女の胸を離れていき、ついに完全な別離を余儀なくされる。 廃墟と化した居城のホールに金属音が響く。城から這い出し、何百年かぶりに両の足で踏みしめた地の感触は、あの時と寸分の変わりもなく。
少しずつ、穢れた土の感触と共に、自分の存在の実感が戻ってくる。既に澄み切った己が心。それで最初に紡ぐのは確かな決意。
“世界にとってどちらが悪か、今度こそ、ハッキリさせよう”
杭打たれし夜魔の女王(クイーンヴァンパイア)……シビリー=ハーケンベルクの声なき咆哮が、黎く冥い宵闇に響き渡った。
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