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冬の雨の為に体がまいってしまっていた僕は、結局素直にお風呂をもらうことにした。
「ふひぃ」
張り詰めていた気持ちが、温かなお湯でいっきに緩んで、だらしなく溜め息交じりの声をあげた。
湯煙の昇っていく末を視線で辿る。
見上げた先にあった天井から、滴った水の粒が、僕の鼻に当たって砕けた。
冷たい。
湯船の中に今しがた冷えた鼻先まで浸かり、僕は今日一日についてひとり回想する。
置いてきてしまった夕凪のこと。
おそらくは未来へタイムスリップを経験した僕自身のこと。
そして音砂さんのこと。
主観的に言えば、音砂さんはタイムスリップをして、孤独に取り残された僕を唯一認識してくれた人物、ということになる。
しかし、そこがまた謎なのだ。
普通の人なら、真冬に半袖でいるような人間には関わりたくないだろう。
しかもその人物が突然「自分は過去からタイムスリップをして、現代にやってきた」などどぬかしたら、それこそ僕だって近づきたくはない。誰だってそうだ。
そんな僕に音砂さんは気味悪く思うどころか、話を最後まで聞き入れ、挙句それについて理解を示しているようだった。いや、あれは分かってくれたというよりもむしろ、
予め知っていた、というのが正しい解釈なのかもしれない。
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