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「コーヒーでよかったかしら?」
台所から尋ねてくる女性に、僕はタオルで髪を乾かしながら、首を縦に振った。
正直、コーヒーは砂糖とミルクたっぷりじゃなきゃあんまり飲めないんだけど、あれこれ言うのも忍びない。
「名乗るのがまだだったわね」
2人分のコーヒーをテーブルに乗せ、黒のセーターにこれまた黒のロングスカートを身に纏ったその女性は僕の向かい側に腰掛けた。
「私は音砂 響香(おとすな きょうか)。一応、あなたのふたつ上ということになるかしら」
胸元まである、長くて艶やかな黒髪を手串で何度か梳かしながら目の前の女性、もとい音砂響香さんは僕に簡単な自己紹介をした。
「あなたは」
「名前」
話を切り出す僕の腰を折って、彼女は言う。
「呼び捨てでいいわよ。私もあなたを下の名前で呼ぶことにするから」
彼女はそっけなく言い放ち、マグカップに口を着けた。
「どう、少しは落ち着いた?」
「はい」
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